『 音 ― (2) ― 』
コンテ・クラスのリズム担当できるヒト 知らない?
フランソワーズの投げたリクエストは ぶう〜〜〜んと巡って
< 彼 > の手元に飛んでくることになる。
コンテ とは コンテンポラリー・ダンス ( 現代舞踊 ) のこと。
フランソワーズが通うこのバレエ団でも コンテンポラリーの作品を
上演する機会が増えてきて コンテのクラスが加わった。
「 え 僕でいいんですか?? 」
業界で名を馳せ始めているダンサーが 講師として参加してくれることになった。
まだまだ若手の彼は マダムの依頼に目を丸くしていた とか・・・
「 お願いできる? ウチのダンサー達によ〜〜く教えてやってくださいね 」
「 は はい!! 」
「 貴方の振り付け、ずっと注目していたの。
できたら近々の定期公演で ― 出品して頂ける? 」
「 !!! え て 定期公演 で?? 」
「 そうよ。 あ 都合わるい? 」
「 いえいえいえ〜〜〜 やります、やらせてクダサイ! 」
「 ありがとう よろしく。 」
「 !!! 」
きゅうううう〜〜
マダムとコンテを踊る青年は アーティスト同士として固い握手をした。
― で コンテンポラリーのクラスが始まったのだが。
最初は スタッフの方も試行錯誤の連続だった。
クラスでは 音楽CDを使うが パーカッションや小太鼓で
リズムを刻み 様々の振りを学んでゆく。
「 リズム担当 か ・・・ 適任を探さないとねえ 」
「 そうですねえ ちょいと皆に声をかけてみましょうか 」
「 それがいいかもねえ 」
「 なかなかコンテ・クラスに期待してるコ、いますよ〜〜 」
「 知ってるわ ふふふ あのコでしょう?
確かに クラシックのダンサーより向いているかも ・・・
ふふふ ・・・ どう化けるか楽しみだわ 」
なんてやりとりがマダムと講師陣の間であり ・・・
冒頭の フランソワーズの発言 となったのである が。
「 ― あ〜〜〜 うま〜〜いなあ〜〜〜〜 」
ふう 〜〜〜 ぁ〜〜〜
ピュンマは熱々のほうじ茶を啜ると 満足の吐息をもらした。
フランス風の < ウチのお昼ごはん > の後、
彼は ジョーに頼み込んでほうじ茶を淹れてもらったのだ。
「 ・・・ どう? ちゃんとほうじ茶の味になってる? 」
ニホンジンの! ジョーが 心配そう〜〜に覗き込む。
「 あ? うん ・・・ あ〜〜〜 この香ばしさが なあ〜〜
はあ〜〜〜 ・・・ あちちち・・ うま〜〜〜 」
「 よかったあ〜〜〜 あんまし淹れたこと、ないから
ちょっち心配だったんだ 」
「 美味しいよ・・・ あ〜 最近ウチはあんまり和食、しないのかい 」
「 そんなこと ないよ? 朝ご飯には ぼく ちゃんと納豆、食べるし? 」
「 え パンに 納豆、乗せるわけ?? 」
「 あ〜〜 朝は ぼく、ゴハンなんだ〜
フランの卵焼きでしょ 納豆ごはん でしょ それに味噌汁 だよ 」
「 ふうん? 皆も? 」
「 だいたい。 博士は和食 多いかな〜〜
フランは バゲットに納豆、乗っけてたべてるよ
チーズと合うんだって 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 発酵食品同士 合うのかなあ 」
・・・ なんてカオスな家なんだ〜〜〜
「 ピュンマ 本当に忙しくて大変ねえ 」
ことん。 彼の前に イチゴの皿が置かれた。
「 どうぞ? ウチの温室作よ 」
「 うわ〜 もうイチゴ?? ひゃあ〜 カワイイねえ 」
「 ふふふ 売ってるのよりずっと小粒だけど 甘いわよ 」
彼は その小さな赤い宝石を摘みあげ つくづくと愛でてから
ぽい と口に放り込んだ。
「 ・・・ ん〜〜〜〜 ああ 春の味 だあ〜〜 」
「 ウチのは 香と味 はどこにも負けないわ
ちょっとばかり 野生の味 かもしれないけど 」
「 ん〜〜 いや これがいいんだよ〜〜 春 だねえ ・・・
」
「 うふふ ・・・ よかった・・・
あ ねえ 今回こそゆっくりして行けるのでしょう? 」
「 あ〜 そうしたいんだけど さ
一週間がせいぜい ってとこ。 」
「 まあ ・・・ 本当に 忙しいのねえ
でもね 休暇は大切よ! わたし、大使館に掛け合うわ! 」
フランソワーズは 憤然とした表情で立ち上がった!
「 ふ フラン〜〜 まあ 待って ・・・
ピュンマのハナシを聞こうよう 」
ジョーが ああ もう慣れてるよ ってな表情で彼女の肩に
こそっと手を置いている。
「 う〜ん ・・・ま これが僕の仕事だからね
出来るコトは やるっきゃない って感じかなあ 」
「 そうかもしれないけど ・・・ ホントに 休暇 あるの? 」
「 ― ソレ なに? って状態かも・・・ 」
「 よくないわあ〜〜 だって政府のお仕事の他にも
複数のNGOにも関っているでしょう?
いくらピュンマでも 働き過ぎだわ! 」
「 まあ ねえ ほら 言語の問題がさ ・・・ 」
「 あ そっか。 直で通訳できるのって ピュンマくらい? 」
ジョーが ぽん、と手を打った。
「 う〜〜ん ・・・ そうかもなあ 」
ピュンマの母国語を 直接日本語に通訳できるのは 彼だけかもしれない。
一般的には 一旦 英語かフランス語にしてから日本語へ となる。
まだるっこしいし ニュアンスなど微妙なトコロは上手く伝わらなかったり
誤解されたりすることもある。
「 ・・・ 自動翻訳機、 あってよかったねえ・・・ 」
「 あ? ジョー。 僕、アレ使ってないんだ。 」
「 !? え〜〜〜〜〜 ??? 」
「 う〜ん だってねえ こと日本語に関しては
アレ ぜ〜〜んぜん < 使えねぇ > なんだよなあ〜
妙な翻訳語つかうよか このウチで覚えた日本語の方がさ
ず〜〜〜っと役にたってるよ 」
「 へ ええ〜〜 ピュンマ すごいなあ〜〜 」
「 ジョー? わたしも とっくにスイッチoff よ?
・・・ アレ、モジュールが更新されないから
< 使えねぇ > だわ。 」
「 え?? ふ フランも?? 」
「 皆 offにしてると思うけど?
大人なんか 関西弁っていうの? 上手よねえ
面白い日本語よね 」
「 ・・・ アレは エセ だと思うけど さ 」
「 ニセモノってこと? 」
「 ・・・ まあ 少なくとも ほんまもん じゃあないな 」
「 ふ〜〜ん ・・・ 」
「 そうなんです。 」
「 そりゃ ジョーは 日本語のツ―ルを使う必要、ないけど
そうねえ あのモジュールのフランス語もちょっと古めかしいわねえ
いま あんな風に言わないな〜〜 って表現 のこってるしね 」
「 やっぱり?? 僕んとこの言語なんてさ〜 酷いよ?
BGの自動翻訳機担当って 全然仕事してないよね 」
「 ピュンマの意見に一票! やる気 あるの?って言いたいわ。
あ ねえ 聞いてもいい? 」
「 なに? 」
「 ピュンマって もしかしてフランス語、ずっと使ってた?
わたしと話をするとき 最初から翻訳機ナシだったでしょ? 」
「 あ〜 ・・・わかってた? 」
「 ええ アルベルトとグレートも そうだったのよ 」
そっか〜〜 と ピュンマは少々気まずい表情だ。
「 あ ・・・ 聞いたら悪かった? 」
「 う〜〜ん そんなコト ないけど さ・・・ 」
こくん 彼はほうじ茶の最後の一口を飲み乾した。
「 あ〜 僕の国では フランス語はさ 以前は公用語というか ・・・
政府関係とか上流社会では 全部フランス語だったんだ 」
「 ふうん ・・・ 」
「 だからいい仕事 したければまずフランス語、身につけないと って
カンジだったわけ 」
「 ・・・・ ひゃあ ・・・・ 」
ジョーが 妙な声をあげた。
「 なに?? 」
「 あ ・・・ うん。 ぼく ニホンジンでよかったなあ〜〜って。
ピュンマのトコに生まれてたら ・・・ フランス語 〜〜
うわあ ・・・ 」
「 おいおいおい ジョー〜〜 お前なあ〜〜
お前さんのカノジョ、フランス人だろが〜〜〜 」
「 ― 二ホンに住んでますから 」
「 フラン〜〜 いいの? ちゃんと教育しなおした方が 」
「 ・・・ も〜〜 いいのよ 」
フランソワーズは 肩を竦めている。
「 ― 理解 あるねえ 」
「 カタコトで十分よ わたし 書けないけど
おしゃべりや読むのは 得意なの、二ホン語 」
「 お〜〜〜 すばらしい♪ 」
「 うふふ ・・・ あ ところでピュンマ
明日からは少しは自由時間 とれるのでしょう? 」
「 ああ うん < お仕事 > はなんとか交渉成立したしね〜
大使館にちょいと顔だしてから 秋葉原、うろうろしたいなあ〜 」
「 ふふふ アキバ好きねえ 」
「 え ピュンマっえヲタだったの?? なに系?? 」
ジョーが 俄然身を乗り出してきた。
「 ?? ・・・あ〜〜 そっちじゃなくて ・・・
PCの部品とか欲しいんだ。 実はね〜〜 手作りスマホ に燃えてて」
「 え すご〜〜〜〜 マジィ? 」
「 ああ ホンマジさ。 安く作れれば、国で多くのヒトに回せるからね
アキバのちっちゃな部品屋サンって めっちゃくちゃ詳しいオッサンとか
いてさ 楽しいよ〜〜 ジョーも行くかい? 」
「 ・・・ ぼくは 手作りスマホ は ちょっとむ〜り〜〜 」
「 楽しみね、 明日(^^♪ 」
「 うん 」
に〜〜〜〜っこり。
この時、ピュンマはこの家の女主人の満面の笑みに気付くべきだったのだ。
しかし 仕事がなんとか終了しほっとしていた彼は
やはり疲れていたのかもしれない ― 冷静沈着な彼は珍しく 見落とし を
したのだった。
― さて その翌日 ・・・
「 う〜〜ん ・・・ ああ 気持ちいい晴れだなあ〜〜
さ これから アキバ詣でだ〜〜 ふんふ〜〜ん♪
あ 途中で着替えようかなあ〜 これじゃ アキバって気分に
なれないもんなあ 」
在日大使館を後にして ピュンマがJRに乗り替えよう〜
と思っていた時―
ヴヴヴヴヴ −−−− スマホが鳴った。
「 ?? なんだ?? え メール? 珍しい・・・
え?? フランソワーズ? な なにかあった??? 」
ピュンマ すぐ来て。 バレエ・カンパニーへ 003
一瞬 棒立ちになったその直後 ―
彼は ( 彼も! ) 踵を返すと
ニンゲンとして怪しまれないぎりぎり限度の速度で 駆けだした。
「 フランソワーズのカンパニーは・・・ トウキョウ・メトロだったな
よし ・・・ ! 」
彼はアタッシュ・ケースを小脇に抱えると スーツの裾をなびかせ
地下鉄駅への階段を駆け下りて行った。
・・・ くそ〜〜〜〜
オホリ とかいうあの巨大な池がずっと続いていればなあ
潜ってイッキにショート・カットできるんだけど
ああ〜〜〜 地上をゆくってまだるっこしいよ〜
水の専門家は 内心舌打ちしつつ ― 大切な仲間の元へダッシュしていった。
― 果てして
緑したたる、ちょいと隠れ家めいたその場所はすぐに見つかった。
Ballet Studio
「 ! こ ここだ ・・・ ! フランソワーズ !! 」
プレートを確認し洒落たアイアン・レースの門をひとっ飛び〜〜
脳波通信を全開にしつつ ピュンマは出入り口と思しきドアを ―
バタンッ ! 観音開きのドアが内側から大きく開いた。
「 あ ・・・ あの 自分は ― あ フランソワーズ!? 」
「 あ〜〜 きたきた〜〜〜 待ってたのぉ〜〜〜
ねえ ピュンマ。 これで リズムを取ってくれない?? 」
稽古着の上にコートを羽織った彼女は ずい、 とその楽器を差し出した。
はああああ ???
「 はい お願いね〜〜〜 リズムの指定は講師のセンセイがするから。
さ 急いで〜〜〜 ・・・ って なに その恰好? 」
ピュンマの < 大切な仲間 > は しら〜〜〜っとした目線を
彼の 一張羅のスーツに向けている。
「 なにって。 在日大使館に挨拶した帰りで
( これ 僕の ベスト・スーツ なんですけど! ) 」
「 あらあ〜〜 アキバに行くって言ってたじゃない? 」
「 それは! これからどこかで着替えてから ・・・ 」
「 あ そ。 じゃあ 男子更衣室で着替えさせてもらって 」
「 ― フランソワーズ。 メールの用件は
」
「 だ〜か〜〜ら。 これからコンテのクラスが始まるの。
最初は音楽CD使うのですって。 でも 途中から
講師の方の指定のリズムで − 踊るのよ 」
「 ふうん? で 僕への用件は 」
ずむ。 楽器は再び彼の胸に押し付けられた。
「 同じこと、何回も言いたくないわ。
コレで リズムを取って。 皆 待ってるわ 」
「 ! 緊急の用件って これかい!? 」
「 そうよ。 緊急かつ最重要な用件。
この役目を果たせるのは ピュンマ、貴方しかいません。
さ スタジオはこっちよ 」
「 ・・・・ 」
彼が憮然として 彼の仲間 に拉致られてゆくと ―
「 あら! Bonjour! 初めまして! 」
初老の女性が す・・・っと現れ ピュンマに手を差しのべた。
「 あ あ〜〜 はろ〜 いや ぼんじゅ〜る まだむ ・・・ 」
「 ムッシュ・ピュンマ ね? ヘル・アルベルトから伺っています。
今日は忙しい中、ありがとうございます !
私 このバレエ・カンパニ―を主宰する〜〜 」
「 あ ・・・ あ〜〜〜 ども 」
彼女は 実に流麗なフランス語で話しかけてきた。
( 立て板に水 ・・・ な勢いだったけど )
ソレは 彼が先ほどまで在日大使館で感じていた雰囲気に
とてもよく似ていたので ― ついつい 聞き入ってしまう。
「 あ ・・・ はあ 僕で 宜しいのですか
僕は そのう・・・ダンスの素養などなくて。
音楽も正式に学んではいませんが 」
彼も 自分でも気づかぬうちに自然にフランス語で受け答えしていた。
「 ・・・ふふふ いい感じ〜〜 」
側で 金髪のフランス娘は心地よい母国語の応酬に
に〜〜〜んまり していた。
「 このままじゃ ダメかなあ 」
覚悟を決めた?ピュンマだったけれど スタジオの前でまだ躊躇していた。
とりあえず上着は脱いでネクタイは外した。
シャツの袖も捲り上げた。
「 あらあ〜〜 ・・・ う〜〜ん その恰好だとぉ〜〜
う〜ん いいわ 時間ないし。 動けるでしょう? 」
「 そりゃ まあ ね 」
「 それなら − お願いね! 」
「 緊急コードで連絡してきて ・・・
僕に この ・・・ 太鼓? を叩けってのか〜〜 」
「 そうよ。 だってこれは ピュンマ、貴方にしかできない
最重要ミッションよ 」
に〜〜〜っこり。 碧い瞳がきらきら輝いている。
「 ― ・・・ わか〜〜っった よ
僕だってね 故郷のフェスではチビの頃から花形なんだぜ?
ああ よ〜〜〜く聞いてろよ、僕らのリズム感を聞かせてやるから 」
よおし。 ピュンマの顔付が 変わった。
政府の仕事をし IT関係に詳しい技術者 ・・・ から
若いエネルギー溢れる・大地の国の青年 に なった。
( いや 戻った というべきかもしれない )
ズ。 ズズ。 バサ。 ― ぺたん。
彼は靴を 靴下を 脱ぎ棄て ズボンの裾をまくり上げ
素足で しっかりとスタジオの床を踏みしめた。
「 ムッシュ・ピュンマ! よろしく〜〜 」
講師の若者は 頬を紅潮させている。
「 僕の指定 というより 貴方の感性で奏でてください 」
「 オッケ〜〜 」
ばちん♪ 二人はウィンクとサムズ・アップを交わした。
「 さあ ― 大地のリズムを 受け取ってくれ 」
「 皆! それぞれの感性で しっかりこの音を受け取って!
では ― 始めるよっ 」
ザ。 ダンサー達は みな活き活きした顔で バーについた。
「 まず アップ〜〜 から 」
ドン ドン トントントン ドンドドド ドン ・・・ !
あの小さな太鼓のどこから出てくるのか ・・・ と思えるほどの
音が ― そう 大地から湧き出る音が 響きだす。
それは 大地の声 そして 大気のため息 時に 揺蕩う水のどよめき。
自然が奏でるあらゆる音を 小さな太鼓が再現してゆく。
・・・ うわ〜〜〜 すげ〜〜
腹に響くって こ〜いう音かあ〜
きゃ ・・・ 窓ガラスが揺れてるわ〜
ねえ 空気も震えてない?
うお〜〜 なんかエネルギーがくる〜〜
ああ 俺の身体が ・・・
踊るよ 踊れるよ 踊るんだ !
日頃から 音 に敏感で そして 音 と共に生きているダンサー達の顔が
全体的にぱあ〜〜〜っと明るくなってきた。
作られた < 営業用にっこり > ではなく 自分自身の表情が
自然に滲み出てきたのかもしれない。
そんな音に煽られ 乗せられ ― そして その音と共に動きだす ・・・
それは もうすでに 踊り になっているのだ。
「 ・・・ フランソワーズぅ? 彼って やっぱ親戚? 」
隣のバーから みちよサンが囁いてきた。
「 みちよ〜 残念ながら違うけど でもね
と〜〜っても大切な知り合い☆ 」
「 アタシ! この音 好き! ねえ 元気がでるわ! 」
「 みちよ、 コンテに向いてるかも 」
「 そう? 新しいジャンルね! 」
「 うん アタシ ― なんだか解放されてく気分〜〜 」
ドン ドドド ドン トントン トン ・・・
「 さあ バーを離れるよ センターに出て〜〜
ほら まず基本の動きを 」
ザザ ザ ザザ −−−
ダンサーたちは自然に 振り付け師と楽士の周りに集まる。
「 よ〜くリズム 聞いて。 ― そして 自分の身体の中から
湧き出してくる動きに 乗る〜〜
デタラメじゃないよ いいかな〜〜
この振りを 自分ならどう表現するか ― それを考えて 」
ス・・・ ダンッ !!! しゅ −−−−
講師の若者の身体が しなやかにリズムに乗り始める。
ドンドドド ドン トトトト トンッ
「 ・・・・ 」
ピュンマも 身体を自由に動かし太鼓でリズムを刻んでゆく。
横目で講師さんの動きを追っているが だんだん釘付けになってきた。
へえ ・・・
このヒト、 すごいなあ 〜〜〜
ニホンジンかい?? リズム感、すごいよ
ふ〜〜ん これが才能なんだね
たいしたもんだ・・・
いまに 大きな仕事、するだろうな
よおし 僕の村の伝統的なリズムやるぞ
ついてこれるかあ〜〜?
さあ 思いっ切り 踊れ!
トト トトトン ドド ドン トトト −−−
歯切れのよい音 地の奥から湧きあがる音 太陽と大地の音が
スタジオいっぱいに広がり ― 舞うために生まれてきたモノたちが
まさに 舞い踊り続けた。
― クラスの後で マダムの私室でコーヒー・テーブルを囲んだ。
「 ムッシュ・ピュンマ。 是非 ウチの音楽講師になって欲しいわ。
ヘル・アルベルトの推薦通りだわ〜〜 」
マダムは もう満面の笑みである。
「 え・・・っとぉ〜〜〜 」
「 お国に戻って検討してくださるとうれしいわ 」
「 あ〜〜 はあ ・・・ 」
「 あの 日常のお仕事の邪魔になるかしら 」
「 あの 僕 一応国家公務員 なんで ― そのう〜〜〜
副業ってのは ちょっと 」
「 え 国家公務員? あ〜ら。 そうなのぉ〜〜
アーティストの方が人生にとって有意義な仕事だと思うわ! 」
「 あは ・・・ 」
「 ね? 是非是非お願い!
そしてね 今日の講師君からの絶大なるリクエストがあるの。 」
「 はあ? 」
ね ? とマダムは講師の新進気鋭のコンテ・ダンサーを振りかえる。
「 ・・・ あ あの!
さっきの太鼓のリズム ・・・ 是非是非 CDにしてください!
本当は生が最高なんだけど 」
「 あ いやあ〜〜 さっきのはホント、即興で ・・・ 」
「 そ 即興?? すげ ・・・ 」
「 だから もう一度はできないかも 」
「 いいんです、また違う音が聞きたいから!
・・って あは・・・ 図々しいかなア 」
「 ふふふ ・・・ 芸術家は常に貪欲なのよ 」
「 あ 僕 もう負けそうです 」
あの冷静沈着なピュンマが タジタジである。
あは ・・・ なんか僕の中で
故郷の音が 聞こえ始めたよ
「 あのう ・・・ ピュンマさんの出身は ○○ですよねえ 」
「 そうです 」
「 お国は ― 確か内陸国ですよねえ ? 」
「 そうですね〜 大きな湖や 長い大河は流れてますけどね
いわゆる 海岸とか海とは無縁です 」
「 ・・・ う〜〜ん ・・・・
なんかね 僕 ピュンマさんの音から 水 を感じるんですよ
川とかじゃなくて こう〜〜〜 ひろ〜〜い 海 を
豊かな水を 感じるんです 」
「 ・・・ 水 を ・・・ 」
「 もちろん 広いひろ〜〜い大地があるんだけど ・・・
その奥に ものすごく豊かな水 があるなあ 」
「 ふうん ・・・? あ これ美味しいですね 」
ピュンマは珈琲に気を取られてる風を装ったが
内心 どきり、としていた。
・・・ 水 を感じる か。
この若者は ― すごい感受性だなあ
感性がひりひりしてる・・・
― ああ いつか
僕の音で 彼に踊ってもらいたな・・・
「 ふふふ〜〜〜 ウチのカンパニーに強力なメンバーが
加わったわ〜〜 」
マダムは クリームにありついた猫さん みたいな笑顔だ。
「 いやあ ・・・ 」
「 僕 嬉しいです! 才能あるヒトたちに教えるって最高だ! 」
「 うふふふ よいわねえ〜〜〜
ねえ ムッシュウ・ピュンマ。
貴方、 ヘル・アルベルト ともご友人なのでしょう? 」
「 はい まあ 古いトモダチです。 」
「 彼も ― 彼の感性も凄いわ。
私 彼の音にね、 とてもしなやかな強さ を感じるの。
・・・ なにか 深い深い悲しみを経てきたヒトみたいな 」
え ・・?
ああ このヒトは ホンモノの芸術家だ
ピュンマは なにか底知れぬ感動が身体に沁みてくるのを感じていた。
Last updated : 03.21.2023.
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********* 途中ですが
珍しいヒトが活躍しています ・・・
これ アップできたら いいなあ ・・・・
まだ 続きを書きたいのですが (*_*;